
ビートルズ・ブートレッグ55年目の真実
Stories 6 (ストーリーズ 6)
How did "CBM" get its start? (CBMはいかにして誕生したか?)
Stories 6-14 セクション 14 Recordings Incorporated (レコーディングズ・インコーポレイテッド)
CBMは発足当時、バージニア州ノーフォークを拠点としていた。今回のストーリーズでは、「CBMはいつから活動を始めたか?」を解明することが目的なので、このセクションではRecordings Incorporatedというプレス工場をメインに解説するが、CBMは活動停止まで、拠点を数回移動させ、複数のプレス工場を利用していたことがわかっている。
ビートルズのブートレッグ・ファンもよくご存じかと思うが、初期におけるCBMの盤質は悪くなかった。よく言われる盤質が柔軟なタイプは、さほどノイズも無く、むしろ良ブートレッグとしては良い方だった。
CBM初期のプレス(このウェブ・サイトでは1970年から1973年までを指す)ではRecordings Incorporated をメインにしていたようだが、他にもWEC(Walt Copeland)やTVC(Tracy-Val Corporation)、F/W(Frankford/Wayne Recording Labs)を利用していたことが判明している。
悪い意味でCBMを印象づけたのは1974年以降にプレスされた、盤質の硬い、粗悪な塩化ビニールを使用したプレスだった。再生すると音がノイズにまみれていたのである。
だがしかし、一方で、極めて上質なブートレッグもプレスしていたのも事実である。1974年の後期、CBMは Instant Analysis レーベルで新しいタイトルをプレスし始めた。その後すぐに登場した名盤「Sweet Apple Trax Vol.1&2」もInsatant Analysisレーベルによるもので、マテリアル、音質、そして盤質も良く、当時としては最高のブートレッグであった。
このセクションにおいては「Recordings Incorporated」にフォーカスし、「CBMの誕生時期」に関係してくる事実関係を説明していきたい。
Recordings Incorporated (RI)
RIはメリーランド州のボルチモアにあったプラントである。メジャーなプラントというよりは地域性が高く、主にボルチモア周辺で活動するアーティストのレコードを制作していた。このRIで製作されたレコードには最大の特徴がある。マトリックスにRIで始まるナンバーが与えられ、ほとんどのケースその番号はディスク・レーベルにも印字される。
(その昔、ビートルズ海賊盤事典にはCBMのマトリックスナンバーにあるRIの文字はRe Issue:リイシューを表すなどと書かれたことがあったが、それは完全な誤解である)
写真下 はPete Vechoniという歌手の1971年に発売された 「Rambling Rose / Because」というシングル盤である。

Flite Threeというレーベルから発売されており、その下にはプレス工場「Recordings Incorporated」の名も印刷されている。(実はこの名称が略称ではなく正式に印刷されているケースは稀である) ディスク・レーベルには「Recordings Incorporated」を略した「RI」が頭に付いた「RI 3363 A/B」の文字がプリントされており、そのままこの番号がマトリックスにも書かれている。(このケースSide 1/2を逆にしてしまったミスがあるが)
このプラントでマスター制作からプレスまで一連のプロセスをこのプラントで行ったときは、まずマトリックスに「RI」で始まるナンバーが書かれ、同時にその番号がレコード番号となり、ディスク・レーベルに印字され、そのレーベルを使用してプレスへと移行する。
ところがそうではないケースもある、例えばマスター制作やスタンパー制作を他のプラントで行ったようなときは、マトリックスは別の(RIの無い)番号であるはずだ。しかし、そのスタンパーを用いRIのプラントでプレスするケースもある。こういったケースについては、この後リストする「RI」でプレスされた正規盤の事例を具体的にあげて、その中で説明していきたいと思う。
リストするレコードは故意的に1971年リリースのものを多く選出した。セクション3 のRainboレーベルのリストにおいて行ったように、それらの特徴と、およそのプレス時期を推定することにより、前セクションでリストしたブートレッグ、そして今後のセクションでリスト予定のブートレッグと比較、整合性を図りたい。(注:RI-①~のナンバーはこのウェブ・サイトにおける整理番号です)
Recordings Incorporated によってプレスされた正規盤 (1971~1972年からの選出)
RI-① Jon & Jodi / Two Sides Of Jon & Jodi(LP, Del-Ray DR 1001) マトリックス RI3180 A/B
RI-② Jon & Jodi 「 Lady Bug / You're Not Leaving Me」(45rpm Single, Del-Ray 216)マトリックス RI3181 A/B
このリストに選出する際には、ある程度データが取得できるものや、その情報に信頼性があものから考慮しているのだが、当初、このアーティストはまったく眼中になかった。なぜなら私の勝手な先入観で、無名のアーティストであると決めつけていたからである。ところがRI-①のアルバムは2013年に日本のVIVID SOUNDというレーベルから復刻CDの発売があったという情報を知り驚いてしまった。

←写真 RI-①
Two Sides Of Jon & Jodi (VSCD-6049 )2013年に日本でVIVID SOUNDから復刻CDとして発売されたもの。CDの表面には当時のディスク・レーベルがそのまま復刻されており、「RI 3180」のナンバーもそのまま。
ディスク・ユニオンのウェブ・サイトに掲載されている説明によると、「サイケファンに知られる米国の男女フォーク・デュオ」なのだそうで、RI-①のアルバムは「自主制作盤でリリース」したものだそうだ。
まず当時のビルボード誌で調べると1971年8月7日と14日にこのアルバムタイトルが掲載されていることがわかった。しかも14日付のほうには「New LP」の項目に載っていた。
少し道がはずれるのだが、ビルボード誌で昔の情報を調べる場合、留意しなければならないことが経験上あった。それはあまりポピュラーではないアーティストの場合において、当時はリリースと掲載にかなりの時間差が生じることが多々あるようなのだ。そのため、当時のビルボード誌でにおいて「New Release」だとか「Current Release」といった項目ページがあるが、今の時代の感覚でそのまま受け取るよりも、むしろ疑ったほうがいいのである。
そこでさらに東海岸のローカル新聞中心に調べたところ、ペンシルバニアで発行されているMorning Press紙1971年3月18日付に彼らのことが写真入りで特集記事が掲載されていた。

←写真
1971年3月18日付 Morning Press紙 (ペンシルバニア)
ペンシルバニアゆかりのミュージシャンとのことで「Jon And Jodi」を紹介する記事が掲載されていた。「CUT RECORD」とあり、RI-② 「 Lady Bug / You're Not Leaving Me」のタイトルが書かれている。
つまり、1971年3月18日時点で、RI-①の「RI 3180」とRI-②の「RI 3181」は両方とも発売されていたのである。

↑写真 RI-② 当時発売されたシングル盤。ディスク・レーベルに「FROM THE ALBUM "TWO SIDES OF JON & JODI"」との記載があり、ナンバー「RI3181」がプリントされている。右側のマトリックス写真でそのナンバー「RI 3181 A1/B1」が確認できる。
そこにはRI-②のLady Bug / You're Not Leaving MeがRI-①のアルバムからシングルカットされたという記述があった。つまり、1971年3月18日時点で RI-①のアルバムとRI-②のシングルはどちらも発売されていたのである。
ということはビルボード誌とは約5か月近い時間差が生じていたわけで、あらためて複数の情報源から事実を掴むことが大事であると感じた。
RI-③ Joey Welz – Keyboard Electricity (LP, Palmer / PLP-13403) マトリックス RI 3240 A/B

このレコードのバックカバーには、レコーディングの他に1971年2月9日にボルチモアでアクセント・サウンドを録音したとあるので、少なくとも1971年2月以降のリリースである。しかし、ビルボードに掲載があったのは1971年10月30日だった。RI-①と②のように、やはり数か月遅れて掲載された可能性があるのだが、このケース、確実なリリース時期が発見できなかったので、「1971年2月~10月までの間に発売」とすることにした。
RI-④ Don Reno / Letter Edged In Black(LP, Wango LP-111) マトリックス RI 3269 A/B

← 写真 RI-④
Don Reno / Letter Edged In Black
上段はフロント・カバーとその拡大写真。封筒をデザインしており、差出人住所はWANGO Recordsとそのナンバーとなっている。消印が1971年7月13日となっており、これが発売日の可能性が高い。その隣の写真はバック・カバーの拡大写真。レコーディングは1971年の5月19と20日となっている。
下段は左から、バック・カバー、ディスク・レーベル、そしてマトリックス写真。
Don Renoはカントリー・ミュージックの演奏者。このレコードは残念ながら特にBillbord誌などからは情報が得られなかった。しかし、バック・カバーには1971年5月19日と20日にレコーディングされたと記述されている。そして、フロント・カバーには封筒の絵がデザインされており、宛名は「Don Reno」、差出人はレーベル会社であるWANGO Recordsの名称と、このレコード番号が印刷されている。注目すべきはこの消印の日付で、「1971年7月13日」となっているところである。推測の域を出ないが、この封筒のデザインの意味とバック・カバーのレコーディング記録からすると、この「7月13日」がリリース日ではなかろうか。
RI-⑤ Bob Braun / Bob Braun's Lonely, Lonely Town(LP, Wrayco WLSP-216) マトリックス RI 3471 A/B

←写真 RI-⑤
上段の左からアルバム「Bob Braun's Lonely, Lonely Town」のフロント・カバーとレーベル
写真下段左は1972年7月19日付のJournal-Herald紙(この時点では発売されていない)
写真右の細長い新聞記事は1972年8月24日付The Indianapolice Star紙でアルバム発売の広告が大々的に掲載された。
Bob Braun は1960年代、アメリカのテレビやラジオでおなじみだったポップ・ボーカリストである。1972年7月19日付のJournal-Herald紙には、このレコードが「まもなく発売されるだろう」という記述がある。さらに、1972年8月24日付のThe Indianapolice Star紙には、このアルバムを発売する広告が大々的に掲載された。よって1972年8月の初旬あるいは中旬の発売とみて間違いないであろう。
では、ここで一旦、上記の「RI」に関する正規盤のデータ(1971-72年)をまとめておきたいと思う。
RI-① Jon & Jodi / Two Sides Of Jon & Jodi RI3180 1971年3月上旬
RI-② Jon & Jodi 「 Lady Bug / You're Not Leaving Me」RI3181 1971年3月上旬
RI-③ Joey Welz / Keyboard Electricity RI 3240 1971年2月~10月までの間 (時期を絞り切れず)
RI-④ Don Reno / Letter Edged In Black RI 3269 1971年7月13日の可能性(レコーディングは5月19/20日)
RI-⑤ Bob Braun's Lonely,
Lonely Town RI 3471 1972年8月の上旬~中旬
これらのデータは次のセクション以降においても、他の正規盤やブートレッグと比較、整合性を図るために再度登場する予定である。
次に「Recordings Incorporated」以外で、CBMが利用していたことが判明しているプラントを紹介する。
WEC (Walt Copeland)
RIと並んでCBMのブートレッグでは、マトリックスによく「WEC」の文字がみられる。これはレコード・プラントに勤めていたあるエンジニアの略名称である。このエンジニアは1970年代より、ノースカロライナ州グリーンズボロのコープランド・スタジオ(Copeland Studios)やクレセント・シティ・サウンド・スタジオ(Crescent-City Sound Studios)を経て、メリーランド州ボルチモアのマスタリング・テクノロジー・ラボ(Mastering Technology Labs)に勤務していたという。このエンジニアによるラッカー盤制作の場合はWECの略文字がデッドワックスに書き加えられる。

←写真
「The New Directions / Sunday Morning With The New Direction」
レコード・ナンバーはRI-3864
マトリックスは WEC RI-3864-A/B
WECはラッカー盤製作時に書かれる。
ディスク・レーベルはプレス時に同時に貼り付けられる。つまりプレス前までには印刷されていなければならない。
ナンバーにRI-3864とプリントされているということはRIのプラントでプレスすることを前提に制作されたレーベルであるはず。
上写真のレコードはThe New Directions というグループの「Sunday Morning With The New Direction」というアルバムである、デッドワックスにはWEC RI-3864とあるが、これはこのレコードのラッカー盤制作に関してはWECが携わったという意味である。そしてディスク・レーベルにはRI-3864のナンバーが印刷されているということは、プレスをRIのプラントで行うことを前提に、RI側がこのディスク・レーベルを制作したと言える。
TVC (Tracy-Val Corporation)
ニュージャージー州にあった工場。ここで作成されたプレートには「TVC」の文字(記号)が刻印される。
ビートルズ・コレクターにとってはよく知られたVee-Jayのサブ・レーベルであるOldies45からリリースされたシングル盤「Love Me Do/P.S. I Love You」もこのTVCによるマスタリングでプレスされた。(写真下↓)

またこのプラントで制作され、マトリックスに「TVC」が書かれているブートレッグと言えば「Alive At Last (Walrus Records)」が有名であろう。また同時期に制作されたと思われる「Last Live Show(Live Records)」(WCFではなくオリジナル盤)、他のアーティストではLeon Russellの「The Master Of Space And Time」(コピーされたモノラル盤)やCBMが制作したElton Johnの「Radiocord」(オリジナルからのコピー盤)がそうである。

↑写真上はCBMがプレスした「Led Zeppelin / Live On Blueberry Hill」、マトリックスに「TVC 」の文字が確認できる。
また、下の写真はMarion Black というソウルシンガーのシングル盤「 I'm Gonna Get Loaded / You're Not Alone」である。このレコードはいくつかの異なるプレスが確認されているが、それらの一つであるこのグリーンレーベル盤はマトリックスにTVCの記号があり、レーベルには「RI 3373」の番号がプリントされているが、マトリックスには無い。
さて、こういったケースの解釈の仕方だが、Discogsの記載内容を参考にすると、まず「VIRTUE CS」はペンシルヴァニア州フィラデルフィアのマスタリング/ラッカー・カッティング施設兼レコーディング・スタジオであったとあり、「TVC」は主にスタンパー制作だったとの記述がある。
これらの事実を総合すると、マスタリングとラッカー盤制作はペンシルヴァニア州フィラデルフィア(「VIRTUE CS」)で行い、スタンパー制作はニュージャージー州(TVC)、そしてプレスはRecordings Incorporated(RI)で行ったということになるであろう。

↑写真 Marion Black 「 I'm Gonna Get Loaded / You're Not Alone」RI 3373はディスク・レーベルにプリントされているものの、マトリックスには無い。マトリックスには「TVC」の文字と「VIRTUE CS」の文字が確認できる。
このセクションにおいては初期のCBMが使用したプラント、主にRI-のレコードについてリストし、他のプラントについてと、レコード・ナンバーとマトリックスから、そのレコード制作のプロセスもある程度読み取ることができるケースを具体的にあげた。次のセクション以降を読んでいただければ、お解りになるかと思うが、今後さらにCBMのブートレッグをリストしていく上で、このような解析の仕方が必要になることがあるからである。
次のセクションでは「確たる証拠 その2」を、そしてその次のセクションではさらに、「Recordings Incorporated」でプレスされた、正規盤とその他のブートレッグを加え、「Don't Pass Me By」の「RI 3316」がいつプレスされたのかという疑問を追求する。