
ビートルズ・ブートレッグ55年目の真実
Stories 6 (ストーリーズ 6)
How did "CBM" get its start? (CBMはいかにして誕生したか?)
Stories 6 -3 セクション3 Rainbo Records (レインボー・レコーズ)
S-で始まるナンバーについて解説する前に、より理解していただくために、レコード製造のプロセスとレーベルと溝との間に書き込まれる固有のナンバーであるマトリックスについておおざっぱに、次のようにまとめてみた。
1. 原盤である「ラッカー盤」 の作成。
2. 「ラッカー盤」は材質的に耐久性に乏しいため、表面に銀メッキを施しその上に更にニッケルメッキを厚く施す。この施されたメッキを剥離して出来た凸型の金属盤が「メタル・マスター」(metal master) で、これが保存用のマスターディスクになる。
3. 「メタル・マスター」に厚い銅メッキを施し、剥がすと凹型の「マザー」と呼ばれるマスター盤が完成。これは生産用のマスターディスクになる。
4. 「マザー」にニッケルやクロムで厚いメッキを施し剥がし、プレス量産するに必要な凸型の「スタンパー」を作成。
5. 「スタンパー」を用いてプレスを行い、この時点でレコード(凹型の溝)が完成。スタンパーは消耗品で、使い潰したら「マザー」からまた新しいスタンパーを作成する。
このようなレコード制作プロセスがすべて同じプラントで行われることもあるが、そうではない場合もある。例えばスタンパー制作までをある業者のところへ依頼し、そのスタンパーを用い別のプラントでプレスのみ行うこともある。
マトリックスを刻むタイミングについては、基本的にラッカー盤ができた時に固有のナンバーを書き込むか刻印するが、プラントによっては、そのプラントで独自のラッカー盤番号をプラント内で判別できるよう書き加えることもある。
さらにマザーから新しいスタンパーを作成する際も、その固有の情報を付け加えて書き込んだり、刻印したりする。
(マトリックスをみると、時に複数のナンバーがあり、それぞれで筆跡が異なるのはそのためである)
さて話は「Get Back(Lemon)」と「Get Back To Toronto」に戻すが、前述した S- で始まるナンバーは、とあるプラントでレコードを制作したときに付け加えられる、そのプラント内での識別のための固有ナンバーなのである。
そのプラントとはRainbo Recordsというカリフォルニアに拠点を置いていたレコード制作とプレス工場を運営していた西海岸のレコード業界ではよく知られた会社であった。創業は1939年ということからもアメリカの音楽文化とともに歩み続け、Rainboそのものがレコードの歴史をたどってきたレコード制作会社と言えよう。アナログ・レコードの衰退後はCDやDVDの制作も行っていたようだが、2000年以降に買収され2020年には完全に閉店してしまった。
S-で始まる5桁のナンバーはおよそ60年代から70年代にRainboで制作されたレコードに認められることがわかっている。

←写真
以前あった、Rainbo Recordsのウェブ・サイト。
このページではカラー盤とピクチャー・ディスクのプレスについて解説されていた。
右下にはS-9200/1のマトリックス・ナンバーをもつ「Silver Beatles Like Dreamers Do (3LP, LDD1)」の写真も掲載されていた
このS-ナンバーがついたブートレッグは1970年代前半では相当数存在している。私はこのS-ナンバーがついたブートレッグをリスト・アップし、分析すれば、およその制作時期がわかるのではないかと考えた。次のセクションではRainbo Recordsでプレスされた正規盤レコードを取り上げたいと思う。
Stories 6 -4 セクション4 「S-」Number (S-ナンバー)
Rainbo Recordsで1970年代前半にプレスされたレコードのマトリックスには、ラッカー盤固有ナンバーの S- で始まるナンバーがついていることを前セクションで述べた。
ブート・コレクターならご存じかと思うが、ブートレッグの中にもS-ナンバーのマトリックスを持つレコードをたびたび見つけることがあると思う。このS-ナンバーを分析することにより、プレス時期などの詳細がわかるかもしれないと考えた。
最初のセクションで「Get Back(Lemon)」(S-2131)と「Get Back To Toronto」(S-2142)のプレス時期がほぼ1970年3~4月と判明していることを述べたが、先んじて、正規盤レコードでリリース時期が判明しているS-ナンバーがないものかと探すことにした。
(ここからは今後このストーリーズを展開させていく中で重要なキーポイントであるので、その都度、それなりのエビデンスを明示しながら説明していく。一部、まわりくどく感じられるかもしれないが、どうぞご了承願いたい。)
S- ナンバーのマトリックスを持つ正規盤レコード
1970年頃、Rainboでプレスされ、マトリックスにS- ナンバーをもつ、正規盤レコードを3枚ほどリスト・アップする。この正規レコードのデータは後のセクションで、S- ナンバーをもつブートレッグの制作時期を導き出すデータとして重要なポイントとなる。
Charles Mansonをご存じだろうか?カルト指導者であり殺人、共謀の罪を犯し終身刑となったCharles Mansonはレコード何枚かリリースした。「Charles Manson / LIE: The Love And Terror Cult (Matrix)S - 2144 SIDE - 1 / S - 2145 SIDE – 2」はウィキペディアによると、1970年3月6日リリースであることが分かっている。(現在ではCDで再発されている)
S-2144/5というナンバーからからGet Back(Lemon)やGet Back To Torontoと同時期ということがわかるため、このリリース時期は疑う余地は無く、間違いないであろう。

2番目のタイトルは「La Wanda / Mutha Is Half A Word」(S-2230/1)というコメディー・パフォーマンスを収録したレコード。これは1970年6~7月頃にリリースされたレコードである。しかし、ウィキペディアでは1971年リリースと書かれている。
実はこのようなことは時としてあり、ネット上の情報を鵜呑みにしてはならない。このデータ分析は慎重を期した。その時期のBillboard誌をくまなくチェックした。その結果、確かに1970年7月25日と8月8日のビルボード誌 に掲載されていることが分かった。7月25日では「Album Reviews」における「4STAR」のカテゴリ「COMEDY」に掲載されていた。(写真の赤矢印部分に注目)
写真上↑:赤矢印部分に注目、まず日付が1970年7月25日である。小さくて申し訳ないが、4 STARの欄、COMEDYの下に「La Wanda/ Mutha Is Half A Word」のタイトルがある。
写真右→:1970年8月8日のビルボード誌。New Album Releasesというページに「La Wanda/ Mutha Is Half A Word」が掲載された。上記7月25日ビルボード誌との時期が矛盾すると思われるかもしれないが、この頃は、リリースから1~2か月後にNew Release扱いされることは稀ではない。またAlbum ReviewsとNew Album Releaseのページはおそらく部署が異なり、書いた記者が異なるのであろう。

さらに8月8日においては「New Album Releases」という項目で掲載されていた。これらの事実からこのレコードは1970年6~7月のリリースとみて間違いない。
3番目に、リチャード・プライヤーというコメディアンのレコードを紹介する。彼は70年代に人気を博したコメディアンだった。(若い世代にはわからないかもしれない・・・)その彼のコメディー・パフォーマンスを収録したレコード「Richard Pryor / "CRAPS" (Matrix) 146A A S-2420 RE2 / A-146 B S-2421 Re1」は1971年2月リリースという情報がウェブ・サイトにある。これに関しても間違いが無いかどうか、Billboard誌で調べてみた。

↑写真 「Richard Pryor / "CRAPS"」リプレスが複数回あるようで、マトリックスも複数見つかっているようだ。ここではSー2420/1を取り上げる。


↑写真左上(赤矢印):1971年3月6日のビルボード誌、ここでは記事掲載ではなく、あるページにリリースの広告が掲載された。 写真右上(赤矢印):そして3月27日のビルボード誌には「New LP / Tape Releases」というページに掲載された。
3月6日に広告が掲載され、3月27日ではNew LP / Tape Releasesのページに掲載されたことから、リリースは1971年3月上旬とみて間違いないだろう。
ここで改めて、このセクションで明らかになったレコード・データについてリストする。
(マトリックスはSide AのS-ナンバーのみを記載)
Charles Manson / LIE: The Love And Terror Cult S - 2144 1970年3月6日リリース
La Wanda / Mutha Is Half A Word S-2230 1970年6~7月リリース
Richard Pryor / "CRAPS" S-2420 1971年3月上旬リリース
次のセクションではS-ナンバーのブートレッグをリスト・アップし、これら正規レコードとその制作時期を照合してみる。