
ビートルズ・ブートレッグ55年目の真実
Stories 6 (ストーリーズ 6)
How did "CBM" get its start? (CBMはいかにして誕生したか?)
Stories 6-16 セクション 16 When did the plant provide the number "3316" for "Don't Pass Me By"? (3316はいつ割り当てられたのか?)
セクション13、14そして15において、Recordings Incorporated(RI)でプレスされた正規レコード、及びブートレッグを取り上げたが、このセクションでは、さらに数枚のRIでプレスされた正規レコードを加え、3316のナンバーが書かれた「Don't Pass Me By」がいつプレスされたのか検証してみたい。
今回取り上げる「RI-××××」のナンバーは3316に近いものを選んでみた。
RI 3307 A Nation's Business "Executive Seminar In Sound": NO.6

このレコードは音楽ではなくビジネス向けノウハウの教本的レコードで、No.1からシリーズ化されリリースされてきたものだ。このNo.6は「Organizing Your Plans And Planning Your Organization」というサブタイトルがついている。
このレコードがいつリリースされたものだか当初は全く資料がなかった。内容が音楽ではないのでBillboard誌などで検索することもできない。しかし、レーベルを見ると©(Copyright)の記号がある。そこでこのレコードがいつ著作権登録されたか調べてみた。運が良ければGoogle Booksでヒットしてくる。
結果このシリーズのレコードのNo.1~No.6まで、いつ著作権登録されたのかほとんどのその日付を知ることができた。ただアメリカの著作権登録は日本の著作権法とは異なる。それが物として記録できた時点で登録できる。つまりレコードで言えばレコーディングが終わった時点である。よっておそらくほとんどのパターンでリリース日はそれより後になるはずである。ちなみにこの RI 3307 は1971年7月10日の登録である。
RI 3314 Frankie And The Spindles "Don't Let It Happen / For Your Love"
RI 3327 Frankie And The Spindles "Have you Seen Her? / Maybe Tomorrow"
Frankie And The Spindles はボルチモアのソウル・グループ。RI 3314 のシングル盤の後、続けてRI 3327 のナンバーで別レーベルからもリリースしている。RI 3327 のシングル盤は10月16日付ビルボード誌で紹介されているのだが、RI 3314 の方はビルボード誌では見つけることができなかった。
↓写真:この2ケースは制作のプロセスが似ている。上段の RI 3314 はセクション14での項目「TVC」の RI 3373 のケースと同じである。マスタリングとラッカー盤制作はペンシルヴァニア州フィラデルフィアの「VIRTUE CS」で行われており、スタンパー制作はニュージャージー州(TVC)、そしてプレスはRecordings Incorporated(RI)で行ったはずである。

↑写真下段: RI 3327 はセクション14で取り上げなかったが、記号「F/W」はフィラデルフィアにあった「Frankford / Wayne Recording Labs」というプラントでマスタリングを行ったことを意味する。CBMを含む1970年代初頭に東海岸で制作されたブートレッグに若干数この記号を見つけることができる。
しかし、Baltimore Afro American というボルチモアで発行されているローカル新聞紙の1971年9月25日付の紙面に、あるレコード・ショップの広告が載っており、その中で個人的にこの曲とアーティストを応援しているようなコメントが掲載されていた。

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1971年9月25日付「Baltimore Afro American」に掲載されたあるレコード・ショップの広告。(ショップ名、住所には画像処理してあります)
内容は『Don't Let it Happen! 力強いビートに支えられた、魂を揺さぶるこのバラード・ナンバーは、「WAR」や「Count to Ten」、「Memphis Underground」といった過去のヒット作を遥かに凌ぐ成功を収めるだろう・・・』といった彼らを応援するような内容となっている。
なにか個人的な思い入れを感じる言葉であるが、おそらく彼らのことをよく知っているのであろう。当時は、新聞の広告に掲載する原稿が、どれくらい前に仕上げなければならなかったかは不明だが、察するに8月下旬から9月上旬のリリースであったことだろう。
RI 3322 Ron Susek Ron Susek Speaks At The Nation's First Capital

このレコードも音楽に関するものではない。Ron Susekさんという牧師が1971年7月3日にイベントで説教をしたその時の録音である。このバックカバーにはペンシルベニア州ヨーク市の当時の市長による、このレコードに寄せた手紙が印刷されており、日付が1971年8月25日となっている。よってリリースはこの日付より後ということになる。
RI 3348 Charles McPheeters / High On Life

Charles McPheetersさんは歌手でありキリスト教の伝道師でもあった。彼は以前麻薬に手を染めてしまった経験をもとに薬物の乱用防止を訴え歌手として活動していた。
1971年10月5日のウィスコンシン州The Post-Crescent紙には彼がHigh On Lifeコンサートと題されたライブを行っていると報じている。また、The David Allan Hubbard Library というデジタルライブラリーで彼のHigh On Lifeのレコーディング用リールテープについての記録をみつけた。そこには「9 / 71」と書かれてあるので1971年9月のレコーディングであったのだろう。
以上6タイトルの「RI-××××」ナンバーである正規レコードをリストしたが、これらに「Don't Pass Me By(3316)」を含め、並べると以下のようになる。
RI 3307 A Nation's Business "Executive Seminar In Sound": NO.6
7月10日にCopy Right 登録
RI 3314 Frankie And The Spindles "Don't Let It Happen / For Your Love"
9月25日の新聞にあるレコード・ショップからこの曲の応援メッセージ
RI 3316 Don't Pass Me By
RI 3322 Ron Susek "Ron Susek Speaks At The Nation's First Capital"
バック・カバーに8月25日付の手紙の写真あり
RI 3327 Frankie And The Spindles "Have You Seen Her ? / Maybe Tomorrow"
10月16日付ビルボード誌にこのシングル盤が掲載
RI 3348 Charles McPheeters "High On Fire"
9月のレコーディング、10月5日から同名コンサート・ツアー
これらの事実から、3316が「Don't Pass Me By」に割り当てられたのはいつだと思われるだろうか?
レコードによって、マスタリングから工程を経て、プレス、そして発売と全て同一の期間内とは限らないであろう、また番号順ではなく多少の時期の前後はあり得るだろう。しかしながらセクション13と15の新聞広告に掲載されたCBMのタイトルとナンバーから考えると、「RI-3316」は、はやくて8月、自然に考えて9月、遅く見積り10月もあり得るかもしれないと考えるのが妥当ではなかろうか?
そしてここで申し上げたい重要なポイントは、仮に3316がこの時期にプレスされていたとしても、それが「Don't Pass Me By」の1stプレスではないはずである。セクション15に具体的な例を示したように、「RI-××××」の無いDPB01~07までのマトリックス「CBM2A2 / CBM-2B / CBM2-C1 / CBM2-D1」のプレスは「3316」が割り与えられる前で、RI以外のプラントでマザー・プレートが制作とプレスがあったはずである。
となると「Don't Pass Me By」が最初にプレスされたのは少なくとも8月より前ということになるのだが、セクション15で明らかになった通り、この時期のCBMはおよそ数か月周期ででリイシューしていると思われる。となると「RI-3316」よりも前のプレスは6月~8月に行ったのではなかろうか?さらに前のプレスの可能性もあるかもしれない。
御存じの方も多いと思うが、一般にTMOQのYellow Matter Custardは1971年9月であったと言われている。
そして「Don’t Pass Me By」のSide C と D はTMOQ盤からコピーしたと認識している人も多い。しかし実はCBM盤「Don't Pass Me By」の方がTMOQのYellow Matter Custardよりも早期にマーケットに出ていた可能性が強いのである。

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TMOQによる「Yellow Matter Custard」(マトリックス:BBL513A/514B)は1971年9月のリリースと言われてきた。写真は2021年に発売された「A Pig's Tale (Genius Book)」の「Yellow Matter Custard」が掲載されたページ。やはり、「SEPTEMBER 1971 」と記載している。
私はこれは十分にあり得る話だと考えている。なぜなら1970年代初めに同じマテリアルによって作られたブートレッグにはTMOQ盤よりも音質の良いものが実際にあるからだ。WCFによるYMC-102はその典型例で、1993年のGreat Daneによる「The Complete BBC Sessions (9 CD)」のライナー・ノーツにも書かれてあるようにTMOQ盤より音質が良い。(つまりコピーではない)さらにその後明らかになった事実は、 Freddy Stomper "The Marked Hand"によってプレスされたUK輸出向け「Yellow Matter Custard」は当時プレスされた中では出力が大きく最も音質が良いということだった。つまりTMOQ以外でも複数のブートレッガーがマスター・テープにアクセスすることができていたはずなのである。

↑写真:上段左はWCFによる「Yellow Matter Custard」、中央はそのディスク・レーベルである「YELLOW Records」レーベル。右は同じスタンパー「YMC-102 A/B」によってリイシューされたBlack Gold Concerts盤。盤質の良いBlack Gold Concerts盤を聞くことによって、TMOQ盤よりも音質が良いことがわかる。写真下段は1972年にUK輸出用としてあるブートレッガーがマスタリングしなおした「Yellow Matter Custard」。この当時プレスされた同マテリアル収録盤としては最も音質が良い。ピンク色のインサートには「Freddy Stomper Marked Hand」なる名前がある。同時期に、同ブートレッガーがプレスしたピンク・フロイドの「 EMBRWO 」はコレクターの間ではあまりにも有名。
さてここで一旦、話は「Don't Pass Me By」から話ははずれ、次のセクションではCBMはいつから始動していたのかを検証してみる。
なお、このストーリーの最後に、もう一度、私なりの推測ではあるが、もっと具体的に「Don't Pass Me By」の1stプレスの時期を探り番外編として書く予定である。
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